広島高等裁判所 平成9年(ネ)355号 判決 1997年12月02日
平成八年(ネ)第二八五号事件控訴人、
平成九年(ネ)第三五五号事件被控訴人
(一審甲事件原告、当審反訴被告)
廣瀬憲夫訴訟承継人
破産者廣瀬憲夫破産管財人
大本宜司(以下「控訴人廣瀬破産管財人」という。)
平成八年(ネ)第二八五号事件控訴人、
同第四六一号事件申立人
(一審乙事件被告)
道木輝人(以下「控訴人道木」という。)
右両名訴訟代理人弁護士
板根富規
同
飯岡久美
同
坂本彰男
同
廣島敦隆
同
山田延廣
同
山本一志
同
足立修一
同
石口俊一
平成八年(ネ)第二八五号事件被控訴人、
同第四六一号事件相手方、
平成九年(ネ)第三五五号事件控訴人
(一審甲事件被告、一審乙事件原告、当審反訴原告)
株式会社シティズ
右代表者代表取締役
谷﨑眞一(以下「被控訴人」という。)
右訴訟代理人弁護士
谷口玲爾
同
坂下宗生
主文
一 甲事件につき原判決主文第一項を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人廣瀬破産管財人に対し、金三二万二二〇〇円を支払え。
2 控訴人廣瀬破産管財人のその余の請求(後記第四項の点を除く。)及び被控訴人の控訴人廣瀬破産管財人に対する請求をいずれも棄却する。
二 乙事件につき原判決主文第二項を取り消す。
被控訴人の控訴人道木に対する請求を棄却する。
三 被控訴人は控訴人道木に対し、金九四万二七五一円及びこれに対する平成八年八月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 控訴人廣瀬破産管財人の「破産者廣瀬憲夫と被控訴人との間の平成三年一〇月一六日付金銭消費貸借契約に基づく破産者廣瀬憲夫の被控訴人に対する債務が存在しないことを確認する。」との訴えにかかる受継の申立てを却下する。
五 訴訟費用はこれを五分し、その四を被控訴人の負担とし、その余を控訴人廣瀬破産管財人の負担とする。
六 この判決は、第一項1及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 平成八年(ネ)第二八五号事件
1 原判決を取り消す。
(甲事件につき)
2 破産者廣瀬憲夫(以下「破産者廣瀬」という。)と被控訴人との間の平成三年一〇月一六日付金銭消費貸借契約に基づく破産者廣瀬の被控訴人に対する債務が存在しないことを確認する。
3 被控訴人は控訴人廣瀬破産管財人に対し、金八〇万二八二九円を支払え。
(乙事件につき)
4 被控訴人の控訴人道木に対する請求を棄却する。
二 平成八年(ネ)第四六一号事件
被控訴人は控訴人道木に対し、金九四万二七五一円及びこれに対する平成八年八月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 平成九年(ネ)第三五五号事件
被控訴人の破産者廣瀬に対する広島地方裁判所平成八年(フ)第五八三号破産事件における破産債権が、金九七万〇九三七円であることを確定する。
第二 事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する(なお、特に断らない限り、原判決中に「原告」とあるのを「破産者廣瀬」と、「被告道木」とあるのを「被控訴人道木」と、「被告会社」とあるのを「被控訴人」と、「原告ら」とあるのを「破産者廣瀬及び控訴人道木」とそれぞれ読み替えるものとする。)。
一 原判決二枚目裏三行目の「事案であり、」を「事案である。平成八年(ネ)第二八五号事件にかかる」と、同四行目から同五行目にかけて「過払い分の支払いを請求する」とあるのを「過払い分についての不当利得返還請求をし、その訴訟が当審に係属中、破産者廣瀬が破産宣言を受け、控訴人廣瀬破産管財人が受継の申立て(なお、右受継申立ての適否については後に判断する。)をした」とそれぞれ改め、同六行目の末尾に「また、平成九年(ネ)第三五五号事件(当審反訴事件)は、被控訴人が控訴人廣瀬破産管財人に対し、破産者廣瀬の提起した右債務不存在確認訴訟につき受継の申立てをして破産債権の確定を求めたものである(なお、右受継申立てにつき、控訴人廣瀬破産管財人は異議を述べており、右受継申立ての適否については後に判断する。)。さらに、平成八年(ネ)第四六一号事件は、控訴人道木が被控訴人に対し、仮執行宣言付原判決により支払った金員につき仮執行の原状回復及び損害賠償を命じる裁判を申し立てたものである。」を、同一一行目の「所在」の後に「。乙一、二、弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。
二 同三枚目表二行目の「貸し渡した」の後に「(以下、これを「本件消費貸借契約」という。)」を同八行目の「一年間」の前に「利息及び損害金は」を、同裏一行目の「乙三」の後に「、四」を、同八行目の「入金額」の後に「と同じ。」を、同行目の「以下」の後に「、これを」をそれぞれ加え、同九行目の「支払うべき」元利金の支払いを怠った」を「本件消費貸借契約で同日に支払うべきものとされている元利金を支払わなかった」と改め、同行目の「乙」の後に「一一、」を加え、同一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。
7(一) 原審は、平成八年七月三日、「控訴人道木は、被控訴人に対し、金六四万七〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月六日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。」との給付命令に仮執行宣言を付した原判決を言い渡した。
(二) 被控訴人は、原判決の右仮執行宣言に基づき、控訴人道木の給料債権を差し押さえた。
(三) 控訴人道木は、平成八年八月二六日、被控訴人に対し、右差押債権全額である九四万二七五一円を振り込んで支払った。
8(一) 破産者廣瀬は、平成八年一一月五日、広島地方裁判所で同人を破産者とする旨の破産宣告を受けた(同裁判所同年(フ)第五八三号)。
(二) 控訴人廣瀬破産管財人は、平成九年二月一四日、平成八年(ネ)第二八五号事件にかかる甲事件について受継の申立てをした。
(三) 被控訴人は、平成九年五月二一日付で、破産債権者として合計九七万〇九三七円(貸金六四万七〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月六日から破産宣告前日である平成八年一一月四日までの年三割の割合による遅延損害金三二万三九三七円との合計額である。)の債権を届け出たところ、平成九年七月二四日の債権調査期日において、控訴人廣瀬破産管財人は、被控訴人の右届出債権全額に対して異議を述べた。
(四) 被控訴人は、平成九年九月八日、当審に、平成八年(ネ)第二八五号事件にかかる甲事件のうち債務不存在確認の訴えにつき受継の申立てをするとともに、右破産債権の確定を求める反訴請求をした(当審反訴)。
(五) 控訴人廣瀬破産管財人は、被控訴人の右受継の申立てにつき異議を述べた。
三 同三枚目裏一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
1 破産者廣瀬の債務不存在確認の訴えの受継の効果について
(控訴人廣瀬破産管財人の主張)
(一) 控訴人廣瀬破産管財人は、破産者廣瀬の債務不存在確認及び不当利得返還請求訴訟について、既に適法に受継をしたので、被控訴人が受継する必要性はない。
(二) 被控訴人は、受継として破産債権確定の請求をするが、控訴審でこのような請求をするのは、審級の利益を奪うものであり、認められない。
(三) 被控訴人は、原判決の仮執行宣言により、控訴人道木から債権額全額の弁済を受けており、これを破産者廣瀬に対する破産債権として届け出ることは許されない。
(四) したがって、被控訴人の右受継の申立ての却下の決定と、右破産債権の確定の訴えの却下判決を求める。
四 同四枚目表一行目の項目の「1」を「2」と改め、同行目の「法四三条」の前に「本件消費貸借契約につき破産者廣瀬が被控訴人に支払った利息等について」を、同三行目の「同法施行規則」の後に「(以下「規則」という。)」をそれぞれ加え、同四行目の次に行を改めて次のとおり加える。
(控訴人らの主張)
(1) 本件契約書面の償還表(乙五の1、2)の返済期日のうち、第三回の平成四年一月五日、第六回の同年四月五日、第七回の同年五月五日、第九回の同年七月五日は、いずれも日曜日ないし祝日の休日であるところ、右契約書面には返済期日が銀行振込も持参払いも不可能な休日に該当する場合の支払方法及び返済額についての記載がなく、右休日の返済関係が明らかでない。
したがって、右契約書面は、法一七条一項八号、規則一三条一項一号チに定める「各回の返済期日及び返済金額」の記載として不十分であり、法一七条の契約書面に当たらない。
(2) 本件消費貸借契約の返済方法は銀行振込が前提であり、日曜日の前日である土曜日に持参払いをするのは現実的でない。
(被控訴人の主張)
(1) 法一七条が、契約内容を明らかにする書面の交付義務を定めたのは、債務者が契約内容を正確に知り得るようにして、将来の紛争の発生を防止することにある。そして、返済期日が休日の場合には、前日までに返済すれば足りるということは常識的に判断でき、また、返済期日が休日に当たるか否かは暦から容易に知り得るので、返済期日が休日とされていても債務者の返済に支障をきたすことはない。
(2) 返済期日及び返済額は明確であれば足り、債務者において具体的にその額を計算できることを要しない。仮に、利息計算が困難であれば、被控訴人に確認すれば足りるのである。
(3) 金銭消費貸借契約においては持参払が原則であるから、持参払を特に除外しない限り、支払方法が銀行振込に限られるものではなく、返済期日が休日の場合には、前日の土曜日にこれを持参して支払えば足りるのである。
五 同四枚目表六行目の次に行を改めて次のとおり加える。
(控訴人らの主張)
(1) 破産者廣瀬は銀行振込により支払ってきたが、右支払いに際して、利息として支払う旨の意思表示をしていない。
(2) 破産者廣瀬は、平成四年三月二日以降、償還表とは異なった金額を振込送金しているが、被控訴人が利息、損害金の額について説明したことはない。
(3) したがって、これらの支払いは、利息又は損害金と指定して支払った場合には当たらない。
(被控訴人の主張)
利息又は損害金の指定の意思表示は、諸般の事情から認められれば足り、債務者が支払いに際してこれを明示することを要しない。
六 同四枚目表九行目の次に行を改めて次のとおり加える。
(控訴人らの主張)
(1) 法一八条の受取証書の交付は、直接交付を原則としており、その立証方法に鑑みれば、振込送金による場合には、内容証明郵便もしくは配達証明郵便によらなければならないが、被控訴人は右の方法をとっていない。いずれにせよ、被控訴人は本件受取証書を破産者廣瀬に交付しておらず、法四三条の適用はない。
(2) 受取証書は、破産者廣瀬の自宅の住所地に送付すべきであるが、本件受取証書は右住宅地に送付されていない。被控訴人は、これを破産者廣瀬の勤務先に送付したと主張するが、同人の勤務状況などに照らすと、勤務先に送付したことをもって、受取証書を同人に交付したものということはできない。
(被控訴人の主張)
受取証書を内容証明郵便もしくは配達証明郵便の方法で送付しなければならない合理的な理由はない。また、その送付先を債務者の自宅の住所地と限定する根拠もない。貸金業者は弁済者が受取証書を受領し得ると合理的に予想される場所に送付すれば足りる。したがって、被控訴人が本件受取証書を破産者廣瀬の自宅の住所地に送付したことにより、法一八条の受取証書の交付の効果が生じるのである。
七 同四枚目表一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
(控訴人らの主張)
受取証書の「受領年月日」は、振込日を記載しなければならないところ、被控訴人は別の日を記載しており、法一八条一項五号の「受領年月日」の記載としては不十分である。
(被控訴人の主張)
被控訴人は、受領証書の「受領年月日」欄に入金額が現実に被控訴人の通帳に記載された日を記載していたが、これが不合理なものであるということはできない。また、これにより、破産者廣瀬に具体的な不利益を与えていない。
八 同四枚目裏一行目の項目の「2」を「3」と、同行目の「2(四)」を「一2(四)」とそれぞれ改め、同行目の次に行を改めて次のとおり加える。
(控訴人らの主張)
前記一2(四)の特約条項では、期限の利益を喪失したときに残元本について損害金が発生すること、残元本に損害金を付加して支払うことの記載が不明確である。また、支払いが遅滞したときとは、一日でも遅延すれば履行遅滞に陥るのか否か明らかでない。したがって、右条項は、賠償額の予定としては無効である。
(被控訴人の主張)
右特約条項の記載からは、期限の利益を失ったときに損害金が発生することは明らかであり、また、損害金が残元本につくことは素人でも容易に理解できることである。金銭消費貸借契約で「支払いを遅滞したとき」とは、文字どおり一日でも遅れたときと解すべきであり、これを限定的に解すべき理由はない。
九 同四枚目裏二行目の項目の「3」を「4」と、同三行目の「原告ら」を「控訴人ら」とそれぞれ改め、同八行目の次に行を改めて次のとおり加える。
5 被控訴人は控訴人道木に対し、仮執行の原状回復及び損害賠償をすべき義務があるか否か、また、その額はいくらか。
(控訴人道木の主張)
被控訴人は控訴人道木に対し、仮執行の原状回復及び損害賠償として、支払額金九四万二七五一円及びこれに対する右支払いの日である平成八年八月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(被控訴人の主張)
争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 前記債務不存在確認の訴えの受継申立ての経緯は、前記第二の一8のとおりである。
2 被控訴人が破産者廣瀬に対して有すると主張する本件消費貸借契約に基づく貸金債権は、被控訴人の破産者廣瀬に対する破産宣告前の原因に基づく財産上の請求権であるから破産債権に該当するところ、破産債権は破産手続によらなければこれを行うことができない(破産法一六条)。そして、破産法は、その債権行使の方法として債権届出の手続を設けており、右届出に対して異議が述べられたときに、債権者は異議者に対して債権確定訴訟を提起することができる(同法二四四条)。被控訴人は、破産債権者として合計九七万〇九三七円の貸金債権を届け出たところ、控訴人廣瀬破産管財人が被控訴人の右届出債権全額に対して異議を述べたことは、前記第二の一8(三)のとおりである。
ところで、破産宣告の当時、既に財団債権に関する訴訟が係属していれば、その訴訟は破産宣告により中断する(民訴法二一四条)。そして、右中断にかかる訴訟のうち、破産財団に属する財産に関する訴訟は破産管財人又は相手方において受継することができ(破産法六九条一項)、また、破産債権に関する訴訟は新たに破産債権確定訴訟を提起させることなく、右中断にかかる訴訟を届出債権者と異議者との間の破産債権確定訴訟として受継することができる(破産法二四六条一項。なお、右受継の申立ては、届出債権者あるいは異議者のいずれも行うことができる(同項、民訴法二一六条)。また、右破産債権に関する訴訟には消極的確認の訴えを含む。)。
そうすると、届出債権者が破産債権の消極的確認の訴えを受継する際には、その請求の趣旨として届出債権者を原告とし、異議者を被告とする破産債権確定請求を掲げることになる。これは、反訴の形式による破産債権確定のための特別な訴訟行為である。したがって、控訴審で破産債権に関する訴訟を受継する際にもこの破産債権確定の訴えによってしなければならないのであり、これは形式的には控訴審における反訴の提起ではあるが、受継前の債務不存在確認訴訟を受継によって破産債権確定訴訟に修正するための特別の訴訟行為なのであるから、控訴人廣瀬破産管財人の主張するようにこれをもって審級の利益を奪うものということはできない。また、控訴人廣瀬破産管財人は、被控訴人が原判決の仮執行宣言により、控訴人道木から債権額全額の弁済を受けたから、右債権を破産者廣瀬に対する破産債権として届け出ることは許されないと主張するが、控訴人道木が原判決の仮執行宣言により弁済としてした給付は、民訴法一九八条二項にいう「仮執行ノ宣言ニ基キ被告カ給付シタルモノ」に当たることは後記六のとおりであり、任意の弁済としての効果を有しないのである。したがって、被控訴人廣瀬破産管財人の右主張も理由がない。
3 したがって、被控訴人のした平成九年九月八日付の甲事件のうち債務不存在確認の訴え(破産債権に関する訴訟)についての受継の申立ては適法なものというべきである。
また、控訴人廣瀬破産管財人のした平成九年二月一四日付の甲事件についての受継の申立ては、甲事件のうち、被控訴人に対する過払い分についての不当利得の返還を求める訴え(破産財団に属する財産に関する訴訟)については適法であるが、債務不存在確認の訴え(破産債権に関する訴訟)については、申立ての時点では未だ右破産債権の届出はされておらず、控訴人廣瀬破産管財人は、債権届出に対する異議者として受継の申立てをしたものではないから、右債務不存在確認の訴えにかかる右受継の申立ては破産法の予定しない不適法なものというべきである。そして、破産者廣瀬の提起した債務不存在確認の訴えは、被控訴人のした受継の申立てにより破産債権確定の訴えとして適法に受継されたものであることは既に述べたとおりであるが、控訴人廣瀬破産管財人があくまでも右受継の効果を争い、右債務不存在確認の訴えについての判断を求めていることに鑑み、本判決で、右債務不存在確認の訴えにかかる受継の申立てを不適法として却下することとする。
二 争点2(一)について
1 本件契約書面の償還表(乙五の1、2)によれば、返済期日とされた日のうち、第三回の平成四年一月五日、第六回の同年四月五日、第七回の同年五月五日、第九回の同年七月五日は、いずれも日曜日ないし祝日の休日に該当する。そして、本件契約書面には、支払いは「債権者の本・支店に持参、または郵送・口座振込」と記載されている(右契約条項二項、乙四)が、返済期日が日曜日ないし祝日の休日の場合(日曜日及び休日が、当時、金融機関の休業日であり、被控訴人の休業日でもあることは争いがない。)の扱いについて記載されていない。
2 ところで、法一七条は、貸金業者は、貸付けにかかる契約を締結したときは、遅滞なく同法一項各号に掲げる事項を記載した契約書面をその相手方に交付しなければならないこととし、法四三条一項一号は、右法一七条の規定による契約書面を交付している者に対する支払いであることを利息制限法の制限額を超える利息又は損害金の支払いが有効な利息又は損害金の債務の弁済とみなされるための要件の一つとしている。そして、法が、右契約書面の交付を義務付けた趣旨は、契約締結時に契約内容を明確にするとともに、それを書面に記載し、その書面を交付することにより債務者が契約の内容を正確に知り得るようにして後日の紛争が生じることを防止することにあり、また、右書面の交付を法四三条のみなし弁済の規定を適用する要件としたのは、債務者が利息を任意に支払う前提として、債務者において右契約の内容を正確に認識することを要するとしたことによるものである。
そして、法は、右契約書面に「各回の返済期日及び返済金額」を記載するように求めている(法一七条一項八号、規則一三条一項一号チ)が、右事項は契約の基本をなす重要な事項であり、債務者が定められた各回の返済期日に返済が遅れ、定められた返済金額に満たない返済をしたときには、直ちに債務不履行の問題となり得るのであるから、これが不明確であれば債務者に不利益をもたらすおそれがあるのであるから、その定めは一義的に明確でなければならない。
ところで、消費貸借契約における返済期日が休日の場合に、返済期日をその前日とするのか、その翌日とするのかは当該契約条項の解釈に委ねられるものであって、契約書面にその旨の記載がない場合に、当然にそのいずれかに解されるものでもない。そうすると、被控訴人の交付した右契約書面は、その書面の記載自体において、返済期日が休日の場合の扱いにつき不明確であり、法一七条一項八号、規則一三条一項一号チの「各回の返済期日及び返済金額」の記載としては不十分なものであるというべきである。
これに対し、被控訴人は、各回の返済期日及び返済金額は具体的に定められていればよく、返済期日が休日の場合には、前日に返済すべきことは常識的に判断でき、返済期日が休日に当たるか否かは暦から容易に知り得るので、債務者の返済に支障をきたすことはないと主張する。そして、証拠(証人笠原宏美(原審)、乙九四)によれば、平成三年一〇月当時、被控訴人の担当者は、一般的に貸付けに際し、貸付けの相手方に対し、返済期日が休日の場合には前日までに支払うように口頭で説明をしており、被控訴人としては、返済期日が休日の場合には、返済日の前日までに支払いがなかったときには期限の利益を喪失するとの取扱いをしていたこと、被控訴人は、その後、平成五年四月ころ、被控訴人の営業日が週六日から週五日に変更されたのに伴い、返済期日が休日の場合には支払期日を翌営業日に繰下げるように取扱いを変更し、平成九年二月からは、償還表に翌営業日を返済期日として記載していることが認められる。
しかしながら、消費貸借契約における返済期日が休日の場合に、返済期日をその前日とするのか、その翌日とするのかは当該契約条項の解釈に委ねられるものであることは右に述べたとおりであるうえ、被控訴人の当時の取扱いのように返済期日が休日の場合には返済期日をその前日として扱うのであれば、債務者に不測の損害を与えないためにも、なおさら契約書面にその旨を記載する必要性は高いものというべきである。しかも、これを明示するには、他の貸金業者の例(甲二七の1、三〇)にあるように、契約書面に休日が返済期日の場合にはその前日又はその翌日をもって返済期日とする旨を記載する(右例は、その翌日とするものである。)という容易な方法をもって足りることをも勘案すると、本件契約書面に、返済期日が休日の場合の被控訴人の契約内容を記載すべきであったというべきであり、被控訴人の主張するように、貸付けに際し、被控訴人の取扱いを説明すれば足り、債務者において前日までに返済すべきことは常識で判断できるとの解釈を採ることはできない。したがって、被控訴人の右主張は採用できない。
3 そうすると、被控訴人の交付した本件契約書面には、その契約内容の重要な事項をなす「各回の返済期日及び返済金額」の記載に不備があり、法一七条所定の書面の交付の要件に欠けることになるから、破産者廣瀬が被控訴人に支払った本件消費貸借契約による利息又は損害金につき、法四三条一項のみなし弁済の規定は適用されないものというべきである。
三 争点2(二)ないし(四)について
破産者廣瀬が被控訴人に支払った本件消費貸借契約による利息又は損害金につき、法四三条一項のみなし弁済の規定が適用されないことは、右二に判断したところではあるが、念のため、争点2(二)ないし(四)についても判断することとする。
右各争点についての判断は、次のとおり、付加、訂正、削除するほかは、原判決六枚目表九行目の初めから同一〇枚目表三行目の終わりまでに記載するとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六枚目表九行目の項目の「2」を「1」と、同行目の「1の(二)」を「2(二)」とそれぞれ改め、同裏一〇行目の「二、」の後に「六、七、」を加える。
2 同七枚目表二行目の「受けたこと」の後に、「、破産者廣瀬の本件借入金の返済を担当していた佐々木ユリコは、各返済に際し、被控訴人の担当者に電話で利息金額を問い合せるなどしていたこと」を加え、同六行目の項目の「3」を「2」と、同行目の「1の(三)」を「2(三)」と、同一〇行目の「甲六、乙三」を「甲三、五ないし七、乙三、七」とそれぞれ改め、同一一行目の「一ないし三、」の後に「八六、」を、同裏一行目の「原告は、」の後に「平成三年一〇月当時、広島市西区新庄町一四番一号に住民票を有して居住していたが、」を、同二行目の「記入したこと、」の後に、「右住所欄に記載の住所は、」をそれぞれ加え、同七行目の「廣瀬建設有限会社」を「廣瀬建設有限会社」と改め、同一一行目の「の証言」を削る。
3 同八枚目裏六行目の項目の「4」を「3」と、同行目の「1の(四)」を「2(四)」とそれぞれ改める。
4 同九枚目裏一行目の「元利金計算」から同行目から同二行目にかけての「行われている」までを「しかしながら、元利金を計算するに当たっては、右記載された「受領年月日」ではなく、現実の振込日を入金日として処理が行われ、右受領証書には、現実の振込日を入金日とする弁済充当の計算関係が記載されている」と改める。
5 同一〇枚目表二行目の「ものではなく、」の後に「また、これらの受領証書では現実の振込日を入金日として処理が行われ、右受領証書には、現実の振込日を入金日とする弁済充当の計算関係が記載されていることからも、右の齟齬により、」を加える。
四 争点3について
控訴人らは、前記第二の一2(四)の期限の利益の喪失の特約は不明確であって無効であると主張するが、本件契約書面(乙三、四)に記載された右条項の趣旨は、返済期日に元利金の支払いを怠ったときに、期限の利益を喪失すること、その際、残元本全額とこれに対する遅滞したときからの39.80パーセントの割合による遅延損害金を支払うべきことにあること、また、返済期日に元利金の支払いを怠ったときとは、返済期日に一日でも遅れることであることは、社会通念上、明らかである。したがって、控訴人らの右主張は採用できない。
五 争点4について
1 前記第二の一5、6の事実によれば、破産者廣瀬が、本件消費貸借契約上、平成四年一月五日に支払うべきとされていた元利金を同月八日に支払ったことが認められる。しかしながら、同月五日は休日に当たるところ、右契約上、返済期日が休日の場合の取扱いが不明確であることは前記第三の二に認定判示したとおりである。そうすると、破産者廣瀬が、同月五日に右返済金を支払わなかったことをもって直ちに遅滞の責めを負うとするのは相当でない。しかしながら、破産者廣瀬において、右契約の解釈上、その翌営業日である同月六日にこれを支払うについて特段の支障があったものとは認められないから、同月六日を徒過したこと、すなわち、同月七日から遅滞の責めを負うものというべきである。
2 そうすると、破産者廣瀬の弁済による充当関係は、本判決別紙計算書(3)のとおりとなり、破産者廣瀬の平成六年一〇月五日の弁済をもって、被控訴人の破産者廣瀬に対する本件消費貸借契約上の債権は完済され、その後の支払いにより、平成七年三月六日において三二万二二〇〇円の過払いにあると認められる。
六 争点5について
1 控訴人道木が、「控訴人道木は、被控訴人に対し、金六四万七〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月六日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。」との仮執行宣言を付した原判決の言渡しを受け、被控訴人は、原判決の右仮執行宣言に基づき、控訴人道木の給料債権を差し押さえるなどしたため、控訴人道木は、平成八年八月二六日、被控訴人に対し、右差押債権全額である九四万二七五一円を振り込んで支払ったことは、前記第二の一7のとおりである。
そうすると、控訴人道木のした右弁済としての給付は、控訴人道木が仮執行宣言付原判決に対して平成八年七月一六日に控訴を提起した(右事実は本件記録上明らかである。)後に、同判決によって履行を命じられた債務についてのものであり、右の経緯に照らすと、民訴法一九八条二項にいう「仮執行ノ宣言ニ基キ被告カ給付シタルモノ」に当たるというべきである。
2 そして、前記五のとおり、被控訴人の破産者廣瀬に対する本件消費貸借契約上の債権は、破産者廣瀬の平成六年一〇月五日の弁済をもって完済されており、右債権は不存在であるから、乙事件にかかる原判決主文第二項を取り消して、被控訴人の控訴人道木に対する請求を棄却することとし、これにより、原判決に付された仮執行宣言は、その効力を失うことになる。
3 そこで、被控訴人は控訴人道木に対し、原状回復として右受領した九四万二七五一円、及び損害賠償として右九四万二七五一円に対する給付を受けた日である平成八年八月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。
第四 結語
以上によれば、控訴人廣瀬破産管財人の被控訴人に対する債務不存在確認の訴えにかかる受継の申立ては不適法であるからこれを却下し、控訴人廣瀬破産管財人の不当利得返還を求める請求は、被控訴人に対し、金三二万二二〇〇円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、被控訴人の控訴人廣瀬破産管財人に対する破産債権確定の請求及び被控訴人の控訴人道木に対する保証債務の履行を求める請求は、いずれも理由がないからいずれもこれを棄却し、控訴人道木の被控訴人に対する民訴法一九八条二項による仮執行の原状回復及び損害賠償の請求は理由があるからこれを認容することとする。
よって、民訴法三八六条、一九八条二項、九六条、九二条、八九条、一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 金子順一 裁判官 亀田廣美)
別紙<省略>